凍てつく胸中に

(5)

待つ程もなく、金正恩総書記が数人の幹部を従えて部屋へ入ってきた。

思った通りだと胸をはずませながらその前へ一歩進み出た彼はおやっと思った。

金正恩総書記の顔色が曇っていた。

随行者たちの面持ちも沈痛であった。

金正恩総書記は彼の手を取り、真っすぐ太陽像の前に近づいた。

太陽像を敬虔な面持ちで見つめながら静かな口調で責任幹部たちと話を交わした金正恩総書記は彼に向き直り、あなたはすぐにわたしの指示を実行しなさい、今直ちに金正日同志の太陽像を万寿台創作社へ運んで行くのだと言った。

実はその日、金正恩総書記は錦繍山記念宮殿(当時)にて、党中央委員会政治局員たちにこう語っていた。

金正日同志の追慕を行う国家葬儀行事の際、金正日同志の太陽像肖像を奉戴しなければなりません。金正日同志の太陽像肖像は、わたしが金正日同志の誕生70周年の行事に捧げるべく人民軍創作社に課題を与えて形象した肖像を用いればよいでしょう」

金正日総書記逝去の悲報に凍てつくであろう人民の胸中に、総書記のにこやかな影像を描き見せようというのが金正恩総書記の心積もりであった。

この日、金正恩総書記は政治局員たちに、「われわれは心の柱と頼み従っていた民族の偉大な慈父金正日同志がお亡くなりになって悲痛やるかたありませんが、決して気力をなくしてへたばるようなことがあってはなりません」と切々と語った。

金正恩総書記は、金正日総書記を限りなく慕いあこがれる人民の心情をおもんぱかり、総書記の太陽像を市内の処々に設けられた野外弔意式場に掲げるようはからった。

その上で12月20日には、金日成広場など首都の野外弔意式場に太陽像を掲げた状況を現地で確かめた。

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